2009年 7月 3日 石巻では、蒸し暑い高曇りの一日。半袖シャツに、でも紗の上着。

いろいろな場面で機会あるたびに言っているのだが、税金でやっている公立美術館に一番来て欲しいの/来るべきなの は、最も税金を払っている30代40代の男の人たちだ。そしてもちろん、美術館なんか!に最も来ない(来れない?)人たちも、30代40代の一番働いている男の人たちだ。
D和町の小さい美術館の人が、ウイークディの夜7時頃から、美術鑑賞基礎の講座を開くの手伝ってもらえないかと相談しに来た。ううむ、良いんじゃないの、と押っ取り刀でとにかく出かけてみることにした。7月1日のことだ。

美術館はもう少し夜遅くまで開館してみたらどうなんだろうと、よくいわれる。私の行ったスペインでは夜9時まで開いていたよ、というような話もよく聞く。で、やっと、宮城県でも、仙北の小さいその町で、水曜の夜6時半から始まる美術鑑賞講座を開いてみようという所までこぎつけた。この時間なら、その年代の男の人たちも来れるんじゃないだろうか。
当日、美術館で持っている美術探検キット(何枚かの収集作品の実物大コピーパネル)を積んだトラックをスタッフに運転してもらって、会場のまほろBホールに行った。20名ほどの人達が結構きちんとした服装で集まって来ていた。でも、ほとんどは女の人。男性は4人。全員結構歳とった(って言っても僕と同じぐらいか)ホワイトYシャツの人。お話は、いつもの「美術探検」。
その作品を描いた作家の想いなんか気にしないで、自分の知っている物や事を縦横に駆使し、その絵から読み取れるものを確認して行く。そこでわかったことだけを基に、作品の中の世界を確定し、そこから、自分の世界の拡大を図る。そのような読み取りこそが、作品の深い鑑賞に繋がる、というようなお話。字で書くと固そうだけれど、実際のお話は、落語みたいな感じの、ごく柔らかいものだ。でも、こういうお話、仕事の終わった後に聞きたい?みんな。自分に返って考えても、ちょっと僕は行かないかなあ、こういうの。夜は、もっと違ったユックリをしたいなあ。美術は、結構活発で能動的な活動の様に僕には思える。もちろん、この日来た人の中には、この時間でなければ絶対に来れない人も何人か居たのですよ、という話は企画した人から聞いた。話の後の質問の時間のやり取りも普段日中の時とは違った熱心さは感じられた。でも、多分、集まった人たちの問題ではなく、日本の社会の中にある、自分の時間の捉え方や、美術のあり方や、その他様々な、自立する自分の意識の持ちようのようなものが、そもそも、夜に美術を使う意識に深く関係しているように思える経験だった。
これまでの、日本各施設の経験では、美術館が夜間開館しても、ほとんど人が来ない。閉館時間を少し(1、2時間)延長するくらいでは、まったくと言っていいほど人は来ないことになっている。夜11時ぐらいまで開館するのを5年間とか続けてみれば、少し変わるかな。仕事をしなくてよい時間に、その時間をどのように使うかということは、個人のライフスタイルをどのように捉えるかにかかっている。結構な大事業がそこには有る。
仕事を終えてからの時間をその人が何かに使おうとする時、美術は、そこに直接関わるより、そのこと(暇な時にすることのバリエーション)を考えるあたりにはたらき場所が有るのではないかと僕は考えている。
そして今日、石巻の市街地の入り口に有る釜小学校で、5年生のための移動美術探検。使うキットは1日夜の時と同じ。違うのは時間が午前10時から午後3時で対象は10歳から11歳の男女計100人弱というところ。こういう、大人になりつつある子供の人たちと一緒にする、モノの見方の再点検と、各自の頭の整理のような活動は、肉体的にはものすごく疲れるけれど、毎日の典型的大人の仕事で、混乱衰弱し始めている僕自身の頭のリセットのためには、何物にも代え難い活動に思える。